食品・飲料工場の用水と排水処理

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用水の選び方~水源~

食品加工・飲料工場における用水の水源として、水道水、井戸水、地表水の3つが考えられます。大規模工場では井戸水、地表水を、小規模工場では都市上水道水、井戸水を使用するのが一般的です。

都市上水道水 日本の水道水は、質的にも衛生的にも上質の水であるものの、食品加工・飲料の製造用途においては、水質の分析は必須となります。とくに残留塩素、アルカリ度、鉄、マンガン、細菌数などについては、水道水と言えども注意と管理が必要になります。
井戸水 雨水などが地下浸透していく間に、濁りや細菌類がろ過や吸着作用で除去されるため、一般的に清澄です。その反面、地表水と比較して、鉄、マンガン、硬度、アルカリ度などが高い場合が多いです。地域によっては地番沈下を防止するため、井戸水の汲み上げ量が規制されているところもあるので注意が必要です。
地表水 河川水や湖沼水などの地表水は、雨水が流下する過程で土壌や岩石の成分を溶かし込んでおり、その溶存物質の組成や濃度は降雨量や地域により大きく左右されます。地表水には溶解成分の他に流水に洗い流された浮遊物も含まれ、使用に際しては万全の注意と常時監視が必要になります。

 

 

用水の選び方~基準~

次項の飲料水基準に適合している水であることは原則ですが、更に用途によっては表に示すような水質を満足させる必要があります。

水処理設備との組合せにより、低コストかつ安定的な供給が可能であることが重要です。

 

濁り 原因物質として、微生物、ケイ酸、鉄、マンガンなどの化合物、粘土などがあげられる。除去方法としては、凝集沈殿法とろ過法の組み合わせ、またはろ過法が用いられます。
色(色度) 原因物質としては植物の分解生成物であるフミン酸や、その他鉄、マンガンによる着色例もあります。脱色法として凝集沈殿法が一般的。その他塩素剤、またはオゾンによる酸化処理法、活性炭による吸着法も用いられます。
臭気、味 臭気の原因がガス体の場合は除鉄、除マンガン処理、硬度に起因する場合は軟化処理が適しています。微量の臭気、味の除去には活性炭による吸着処理が簡単かつ確実です。
アルカリ度 アルカリ度が高いと、フレーバー変化の要因となります。処理法としては、軟化処理や脱炭酸処理が行われます。
硬度 硬度の高い用水は、スケールの発生や曇りを与えたりするので注意がいります。除去法としては軟水器による軟化処理があります。
鉄・マンガン 鉄やマンガンを含む水は、酸化すると着色したり、沈殿物が発生し、濁り・風味の低下に繋がります。
過マンガン酸カリウム消費量 製品の変質、沈殿物の生成などの要因。除去方法として、塩素剤やオゾンによる酸化処理、活性炭による吸着除去、除鉄、除マンガン処理など。
残留塩素 塩素は製品の色や香料を変化させてしまい、味にも影響を与えます。

除去する方法として活性炭による処理が簡単かつ低コストです。

微生物 藻類、バクテリア類、カビ類、原生動物などは有害な存在です。原料用水だけでなく、導管、器具なども常に清潔に保つ必要があります。塩素酸化処理や、最終工程で紫外線殺菌処理をするのが一般的です。
トリハロメタン(THM THMは有機物が多く含まれている原水に対して塩素処理を行うと生成しやすいと言われます。除去方法として、できるだけ有機物を除去しTHMの生成を抑制する方法と、生成したTHMを活性炭やオゾン処理により除去する方法があります。

 

 

用水の選び方~法的規則~

食品工場で使える水としての法的規制は水道法の水質基準に適合する水、もしくは表 の基準1に示した基準に適合する水になります。

また、ミネラルウォーターの原水については水道法の水質基準に適合した水であるか、表の基準2に示された基準に適合する水を用いることとされています。

 食品衛生法に基づく基準
項目 基準1 基準2
一般細菌 集落数 100 以下/ml 集落数 100 以下/ml
大腸菌群 検出されない 検出されない
カドミウム 0.01mg/L 以下 0.01mg/L 以下
水銀 0.0005mg/L 以下 0.0005mg/L 以下
0.1mg/L 以下 0.05mg/L 以下
ヒ素 0.05mg/L 以下 0.05mg/L 以下
六価クロム 0.05mg/L 以下 0.05mg/L 以下
シアン 0.01mg/L 以下 0.01mg/L 以下
硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素 10mg/L 以下 10mg/L 以下
フッ素 0.8mg/L 以下 2mg/L 以下
有機リン 0.1mg/L 以下
亜鉛 1.0mg/L 以下 5mg/L 以下
0.3mg/L 以下
1.0mg/L 以下 1mg/L 以下
マンガン 0.3mg/L 以下 2mg/L 以下
塩素イオン 200mg/L 以下
カルシウム,マグネシウム等(硬度) 300mg/L 以下
蒸発残留物 500mg/L 以下
陰イオン界面活性剤 0.5mg/L 以下
フェノール類 0.005mg/L 以下
有機物等 10mg/L 以下 12mg/L 以下
pH 値 5.8~8.6
異常でない
臭気 異常でない
色度 5 度以下
濁度 2 度以下
セレン 0.01mg/L 以下
バリウム 1mg/L 以下
ホウ素 30mg/L 以下(ホウ酸として)
硫化物 0.05mg/L 以下(硫化水素として)

 

水質の改良~凝集ろ過~

安定して安全な用水を得るためには、原水の水質を把握し、どの項目を改良すべきかの把握が必要です。また改良にあたっては、数々の処理を組み合わせた水処理設備の設計が必要です。代表的な水質改良技術について説明します。

凝集ろ過

アルミニウム塩や鉄塩などの凝集剤を添加し、水酸化アルミニウムや水酸化鉄を原水中に生成します。濁りや着色原因であるコロイド成分を吸着させてフロック化し成長させ、砂ろ過等でろ過して除去する方法です。濁りや着色成分除去に有効な処理方法で、井戸水、地表水などでは、この方法により一次処理されます。

また、次亜塩化ナトリウム等の酸化剤を凝集剤と併用することで、鉄・マンガンの除去も期待できます。

凝集剤 無機凝集剤には、硫酸バンド・PAC等のアルミニウム塩や塩化第二鉄、硫酸第一鉄等の鉄塩が一般的です。

凝集反応を行う場合に影響する条件として、原水性状、凝集剤種類、凝集剤添加量、凝集時のpH、撹拌時間、撹拌強度、水温など。

酸化剤

(除鉄・除マンガン)

次亜塩化ナトリウム等の塩素酸化により、鉄・マンガン成分を第一鉄塩及び二酸化マンガンの不溶性の形にした後、凝集ろ過により除去する方法。原水にアンモニア性窒素が含まれる場合は、この酸化に塩素が多量に消費されるので注意が必要です。
ろ過法 ろ過法とは、多孔質の層に水を通して水中の濁りを除去する方法です。

ろ材としては主に有効径0.6mm前後の砂が使用されますが、よりろ材のSS捕捉量を多くするため、砂の上部にアンスラサイトを充填した2重層ろ過も多く使用されます。

ろ過機の底部には集水装置が取り付けられており、ろ過面全体で均一にろ過処理が行える構造となっています。一定水量ろ過処理を行うと、蓄積したSSを排出するために、逆洗が必要。

 

水質の改良~膜ろ過~

 

膜処理には多くの種類の膜が利用されています。

膜の孔の大きさにより精密ろ過(Micro Filter:以下MF)、限界ろ過(Uitra Filter:以下UF)、逆浸透(Reverse Osmosis:以下RO)の三種類が一般的です。

精密ろ過

MF

MFは、ろ過膜の孔径が50nmから10µm程度の膜です。処理対象物質がこの膜で除去できるかどうかは対象物質の大きさによって決まりますが、膜および物質の特性によっても除去性能が異なってくる場合があり、注意が必要です。バクテリア類については、基本的には、MF膜で除去が可能。
限界ろ過

UF

UFは、MFとROの中間に位置する孔径を持つ膜。バクテリア類、ウィルス類についても、基本的にはUF膜で除去が可能。装置としては平膜ではスペース当たりの有効膜面積が小さいため、チューブ型、スパイラル型、中空糸膜などに加工してモジュール化したものが一般的。
逆浸透膜ろ過

RO

脱塩目的で利用される場合が多い。膜の脱塩性能は食塩の排除率を指標としており、用途に応じて食塩排除率99.8%の膜から50%程度のルーズ膜まであります。

 

水質の改良~脱塩~

 

原水中に溶解塩類が多い場合、飲料水に適さないため、脱塩を行う必要があります。脱塩処理方法としては、逆浸透圧法、イオン交換樹脂法があります。

逆浸透圧法 前項のRO膜を使用します。逆浸透膜を使った脱塩処理の原理としては、塩水を半透膜を介して水と接触させると、水は半透膜を透過して塩水側に移動します。

この移動はある圧力下になると平衡状態となり停止し、このときの圧力を浸透圧と言います。

この後、塩水側に逆浸透圧以上の圧力をかけると塩水側の水が半透膜を透過し水側に移動する。この現象を逆浸透現象といい、この圧力を逆浸透圧と言います。

このように逆浸透法では原水側に圧力をかけて半透膜を通して脱塩された水を得ることになりますが、このときの圧力は原水および処理水の濃度によって異なります。一般的には2.0~20kPaです。

この方法で処理する場合、膜の汚染や消耗が問題であり、回収率、原水水質、処理水水質によっても異なりますが、次の点に注意して前処理を行う事により膜の汚染を極力抑えます。

【前処理で注意すること】

pH調整、SS除去、カルシウムの析出対策、鉄・マンガンの除去、コロイド除去、溶解性有機物除去、細菌・藻類の除去、シリカ除去

※上記前処理を行った場合でも膜は汚染されるため、適時膜の洗浄が必要。

イオン交換樹脂法 イオン交換樹脂法では、イオンの吸収作用を利用して目的に合った水処理を行います。

また、イオンの交換容量を超えて通水すると処理水中に除去すべきイオンが漏出してくるため、この時点で樹脂の再生が必要です。

再生は樹脂の種類や使用方法によって異なるが、塩酸、硫酸、水酸化ナトリウム、食塩水などが使用されます。

 

排水処理改善のフロー

処理フローを大別すると汚濁成分を分離し清澄な処理水を得る工程、分離した汚濁成分の量を減じ安定化させる工程と処理水、汚泥を資源として回収利用できるように調整、処理する工程などから構成されます。

排水系統の分離 有機質濃度の高い濃厚排水と低い希薄排水を分離することで、それぞれに適した処理が可能となります。

濃厚排水では、高負荷の嫌気性生物処理により全排水の有機物負荷の40%以上を低減することができ、従来の曝気動力を40%近く節減、余剰汚泥発生量もほぼ同程度減少させることができます。

希薄排水では、ろ過等の回収設備により回収水を再利用することを目指すことが出来ます。

活性汚泥法に代わる

生物処理の採用

好気性生物処理はこれまで活性汚泥法が一般的でした。

しかし排水系統分離や負荷管理の見直しから各種生物処理法も検討・採用されています。

バルキング現象への心配がない膜分離活性汚泥処理や流動式生物担体法など、高度処理としては運転コストの低い生物膜ろ過法などが導入されています。

汚泥の減容化 工場から外部に出る廃棄物量の減量が食品加工・飲料工場の大きな課題となっています。

排水処理で発生する汚泥を、製造工程で発生する有機廃棄物とともにメタン発酵させ、廃棄物量の減量化、安定化を図ると同時に、取り出したメタンガスをバイオエネルギーとして、電気や蒸気に変えて有効利用する技術も開発・導入されています。

 

 

 

 

排水処理技術

食品工場の排水処理は汚濁成分を除去する各種工程から構成されます。

汚濁成分としては、BOD・CODで評価される有機物、SSとしての濁質、N-ヘキサン抽出物質としての油分・界面活性剤、pHで表される酸・アルアリの薬品などが処理の対象となります。

食品工場の排水処理は通常、有機物除去を目的とした生物処理を中心に前処理としての中和処理、油分離と、処理水質に応じた凝集沈殿処理、砂ろ過処理などの後処理等、複数の処理技術の組み合わせで構成されます。

 

高負荷型嫌気性処理 高濃度有機性排水を嫌気性処理により効率的に処理し、曝気動力と余剰汚泥が低減でき、バイオガス(メタンガス)が回収可能な方法。

高濃度有機性排水を酸発酵槽に送り、嫌気状態で撹拌することで、排水に含まれる高分子のタンパク質、炭水化物などを加水分解+酸発酵で低分子の酢酸等の有機酸に分解し、この酸発酵処理された排水をグラニュール(メタン菌の粒状凝集体)を充填した嫌気槽に送り、排水中の有機物がメタンと二酸化炭素、水に分解される。

これまで排水処理への適用は限定的でしたが、嫌気槽内部にGSS(Gas-Solid-Separator;気固液分離装置)を備えることで、発生したバイオガス、処理水、グラニュールを効率よく分離できるようになり、高速で有機物を分解除去することが可能になりました。

発生したバイオガスはボイラで熱回収して酸発酵槽の加温や発電に使用でき、余剰蒸気は工場へ送ることが可能など、エネルギー回収が可能です。

膜分離活性汚泥法 膜分離活性汚泥法は省スペースでの生物処理が可能な処理方法で、好気性生物反応槽(曝気槽)と曝気混合液から膜を用いて処理水を透過水として取り出す装置とからなる好気性生物処理法です。

活性汚泥法では固液分離のための沈殿槽と沈殿分離した汚泥を曝気槽に返送する設備が必要であったが膜分離活性汚泥法では膜分離装置がその役割を担います。

分離膜としては一般にMF(精密ろ過)膜が使われます。

設備がコンパクトになる、沈殿槽のスペースを省略できるといった設計上の利点と、バルキングによる汚泥流出の心配がほとんどない、処理水側にSS性成分のリークがほとんどないといった運転面での利点があります。

流動式生物担体法 生物処理槽にスポンジやプラスチックの流動担体を投入し、担体表面に生物を保持させて有機物を除去する方法。

曝気・旋回流により担体が常に流動していることで、微生物増殖(有機物除去)と微生物剥離のバランスが取れるため処理水質が安定します。

担体に生物を保持させるため、汚泥濃度を高く保つことができ、設備が比較的コンパクト。また固液分離装置には凝集沈殿装置を用いるため、バルキングによる汚泥流出の心配がなく、維持管理が容易であるといった利点があります。

生物膜ろ過装置 槽内に充填したろ材の表面に生物膜を形成させ、原水中の有機物を微生物の働きにより分解する方法。

排水は槽上部に供給され、処理水は槽下部から流出する。曝気空気は槽底部から供給され、ろ材の間を上昇する間に空気中の酸素が効率よく溶解します。

原水中のSSと有機物の分解によって増殖した微生物は、充填されたろ材層でろ過される。この時、ろ材の表面に付着した生物膜により、ろ材単独の場合に比べ効果的にろ過が行われる仕組みです。

特長としては設備がコンパクトになる点です。

 

 

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